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視界を奪う「閃輝暗点」は12時間以上連続し、3週間にわたって発症した [その他]

 「閃輝暗点」とは40年以上つきあってきた。20代のはじめの頃である。視界の中央が明るくなった。やがてその点は大きくなり、ギザギザ状の多角形になった。そのギザギザはどんどん大きくなり、まるでこちらに近づいてきているような感じで移動する。ギザギザは視界よりも大きくなり、頭を通り越していくような感覚で視界から消えていく。

 これはおかしいと、眼科に行った。「金平糖みたいものが見えて、大きくなって消えていく……」と説明すると、眼科の女医先生は大笑いして、「金平糖って、良い表現ね。それでわかったわ。それは閃輝暗点よ」

 「閃輝暗点」は、脳の後頭部にある視神経の血流が減少して視神経が痙攣して発症する障害である。年に10回程度発現し、20~30分で消滅する。「閃輝暗点」が消えると、激しい偏頭痛に襲われることが多い。これは血流が復活して血管が膨れるためと言われている。

 「閃輝暗点」ではごく希に脳腫瘍や脳梗塞など重篤な脳の病気が原因で発症する場合がある。そのときの眼科も「念のため」として脳外科に行くことを勧めた。その当時にはMRIはなかったので脳外科では多数のCTを撮影して何も悪いところがなく、「原因不明の閃輝暗点」と確定した。医者は、「これから年に何回か必ず閃輝暗点が出ます。おとなしくやり過ごすしかありません」と言った。診断通り、「閃輝暗点」には年に何回か襲われた。仕事中ということもたくさんあった。ただ通り過ぎるのを待った。

 ここ7~8年、閃輝暗点の出現が減っているように感じた。閃輝暗点の各種解説にあるように、加齢とともに減っているのかと感じた。

 9月のある日曜日。朝の10時を過ぎた頃だった。視界の中央に違和感を感じた。「閃輝暗点か?」と思った。やがてそれはギザギザとなって視界を奪っていく。ところが、ある程度大きくなったところから変化しない。閃輝暗点が終わらない。やっと終わったと思うと、またすぐに視界中央が明るくなり、ギザギザが大きくなる。これが夜の22時過ぎまで、12時間以上連続した。こんなことは初めてだった。

 この閃輝暗点、今までと出現経過が違うだけでなく、形状が違っていた。従来の閃輝暗点はギザギザの角が極めて鮮明で鋭角であったのに対して、まるでフォーカスが甘いような不鮮明なギザギザで、茫洋としたイメージだった。

 この「閃輝暗点」はその日だけでは終わらなかった。断続的にその後3週間ほど続いた。さすがに異常を感じて行きつけの内科に相談し、大きな病院の脳神経外科に行った。症状を説明すると、すぐに緊急でMRIの撮影が行われた。MRIの結果では、異常はなかった。

 脳神経外科の医師は、「脳にどこか異常があるのでしょうけれど、閃輝暗点の発現メカニズムはほとんど解明されていません。治まるまで安息に過ごしてください」と言った。閃輝暗点のメカニズムは、40年たっても医学的にはほとんど解明されていなかった。原因不明、とされた。脳の血流をコントロールする薬や偏頭痛の薬があるにはあるが、発症メカニズムが解明されていないため効果があるかは全くわからず、飲んでもほとんど効かないだろうということだった。

 従来の発症過程とまったく異なる連続して症状が出たことに対しては、「そういうこともあるかもしれない。しかし、発症メカニズムがわからないので、それがどういうことで起こっているのかは全くわからない。発作が治まるまで待つしかない」ということだった。また、「再度同じ症状が出ることも十分考えられる。気をつけているしかない」とも言った。ようするに、閃輝暗点に関しては現在の医学では何もわかっていない。

 この連続発症になったとき、数日後に、寝ている間に閃輝暗点が出た。閃輝暗点は「虚像」である。実際の目に映るものではない。だから、目をつぶっていても、見える。寝ている間に出現した閃輝暗点は、ものすごい気持ちの悪いものだった。吐き気がしそうだった。当然寝ていられなくなり、そのまま起きてしまった。起きた後も、閃輝暗点は容赦なく襲ってきた。目をつぶっても現れるこの症状には、ほとほと辟易した。

 かの芥川龍之介は、小説「歯車」の中で自身が「歯車のような幻覚に襲われる」と書いている。これは現在では、彼が閃輝暗点であったのだろうという診断で一致している。彼は小説を書いた後、自らの命を絶っている。閃輝暗点が出現する身としては、これに苛まれた人が自殺する気持ちはわかる気がする。閃輝暗点が連続出現したら、そのときの苦しさは現れた人にしかわからない。

 いずれにしても、単発的に発症していた閃輝暗点が3週間あまり連続出現するという特異な症状になってしまい、現在の私は「脳に障害を抱えた」状態になってしまった。爆弾を抱えているようなもので、その再現におびえる毎日だ。

 閃輝暗点に関しては、研究が進んでいないため、どの程度の割合で起こるのかがわかっていない。1万人に一人なのか、10万人に一人なのか。数回出てその後出ない人も含めれば、相当数の人がこれを経験している可能性はある。この40年でたった一人だけ、閃輝暗点が出るという人に会ったことがある。お互いに盛り上がったが、しかし、通常は閃輝暗点などと言っても医療関係者以外は通じることはないし、他人に言っても理解はしてもらえないから、閃輝暗点を抱えた人は黙っている。そして出現したら耐えて通り過ぎるのを待つしかない。難病と言えば大げさだが、ほとんど「半難病」の部類に入るような気がする。

 Wikipediaなどでは、ワインやチョコレートを食べると出やすいとか、ある程度の年齢になると出なくなるという記述がある。しかし、これらの記述はほとんど都市伝説である。発生メカニズムが不明であるので、発症に関する原因については論ずるべきではない。私はワインを飲んでも、チョコレートを多量に食べても、それがきっかけで閃輝暗点がでたことはない。

 「閃輝暗点」で検索すると、眼科から脳神経外科や地方の医師会など、その解説は数多い。つまりそれだけ症状を抱えている人は多いのだろう。「閃輝暗点」を抱えた人は、それなりに苦しい生活を送る。その発症メカニズムが解明されることを望んでやまない。

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